JWTC通信２０１１年 秋・冬号 エホバの証人と「エッセネ派」 河野勇一
イエス様の時代のユダヤ教には大きく分けるとサドカイ派、パリサイ派、エッセネ派の三派がありました。私の見るところでは、エホバの証人の指導層である統治体は祭司階級を中心とした現実的利得主義のサドカイ派のようですが、多くの人々が教え込まれているその教義には、エッセネ派の考え方と似たところがあるように思われます。彼らは、汚れたエルサレムの都から離れて荒野に修道院を造り、ひたすらメシアの到来、すなわち歴史の終末を待ち望んでいました（エホバの証人は荒野に隠遁してはいませんが）。
そのエッセネ派の行動の根拠となっていたのは、旧約と旧約外典の黙示文学で前面に出てくる「二つの世」の考え方です。この場合の世は「現世」「来世」の世で、ギリシャ語では「アイオーン」（時代、世代）です。神はこの世（現世）を造り導いておられますが、この世はアダムの堕落によって罪が支配するようになり、神に敵対する悪魔が跋扈して神に従う人々を苦しめています。これに対して、神が新しい世（来世）をもたらすとき悪魔は滅ぼされ、それとともに罪、悲しみ、病気、死なども滅ぼされます。いわゆる「神の国」の実現です。それは、新約聖書そしてイエス様ご自身が言われたことであり、問題があるどころか非常に大切なことです。
では、エッセネ派とイエス様とどこが違っていたのかというと、この世から新しい世にはどのように移行されるかという点です。エッセネ派は、旧約、特に黙示文学が語っているように、「終末の日」「神の日」「主の日」である新しい世がこの世の大破局とともに実現すると信じていました。新約でもヨハネ黙示録やマタイ24章などを読むと、そのような感じがします。しかし、イエス様の言葉、また新約聖書全体を見ていく時それとは違う面が明らかになります。
イエス様は「時が満ち、神の国は近くなった」（マルコ1：14）と言いましたが、その神の国到来はこの世の大破局を意味してはいませんでした。あるときには「わたしが神の御霊によって悪霊どもを追い出しているのなら、もう神の国はあなたがたのところに来ているのです」（マタイ12：28）と、神の御子であるイエスがこの世に来られたからには神の国、終末の時はもう始まっていることを示唆しています。そして、イエス様ご自身が古い世の人類の代表として十字架にかかって死に、新しい世を生きる人類の初穂として三日目によみがえり、続く五旬節の日、イエス様の弟子たちに聖霊が注がれて教会が誕生したとき、クリスチャンたちはこの世にいながら神の国を味わうことができるようになりました。これが、神の国到来の決定的な時です！
ですから、パウロが「だれでもキリストのうちにあるなら、その人は新しく造られた者です。古いものは過ぎ去って、見よ、すべてが新しくなりました」（�競灰螢鵐�5：17）と述べているように、クリスチャンたちは既に、この世にありながら神の国を生きることができるようにされています。もちろん、それは神の国が完成していることを意味しているわけではなく、イエス様の再臨による完成を依然として待ちわびる者でもあります。しかしクリスチャンは、神の国の保証（手付金）である聖霊を与えられていますから、既に神の国に入れられていることを確信し、その喜びを味わいながら生きることができるのです。「またあなたがたも、キリストにあって、真理のことば、すなわちあなたがたの救いの福音を聞き、またそれを信じたことによって、約束の聖霊をもって証印を押されました。聖霊は私たちが御国を受け継ぐことの保証であられます」（エペソ1：13〜14）とあるとおりです。